運送業界の人材不足を解消する7つの施策|採用・定着・DXで輸送力を確保する実践ガイド
運送業界の人材不足は、景気や一時的な採用難ではなく「構造問題」です。ドライバー不足に加え、2024年問題による労働時間規制、荷待ち・再配達の増加が重なり、「仕事はあるのに運べない」状態が現実になりつつあります。
結論から言えば、人材不足は「採用 × 定着 × 生産性」の三位一体でしか解消できません。
なお、この「人材不足は採用だけでは解決しない」という考え方は、物流チャンネルVol.165でも詳しく解説しています。
動画では、
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なぜ求人を出しても人が集まらないのか
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採用に力を入れても現場が楽にならない理由
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人材不足の正体が「人」ではなく「構造」にあること
を、現場目線で掘り下げています。
本記事では、
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制度対応(2024年問題)
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採用・定着の具体策
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現場DXと荷主交渉
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中小運送会社でも実行できる成功事例
までを 実装レベルで解説します。
まずは、運送業界の人材不足が今どのような状態にあるのかを整理していきましょう。
運送業界|人材不足の現状と影響

運送業界の人材不足は、単なる「応募が来ない」問題ではありません。ドライバー不足 × 制度改正 × 非効率な商慣行が重なり、構造化しています。
特に影響が大きいのは、次の3点です。
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人手不足の長期化・高止まり
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年齢構成の偏りと若手不足
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荷待ち・再配達による拘束時間と採算悪化
まずは、それぞれを具体的に見ていきましょう。
現状データその1|2025年も人手不足は高止まり
運送業界では、正社員の人手不足割合が他産業より高い水準で推移しています。一時的に緩和する時期(4月など)はあるものの、年末・繁忙期には再び逼迫します。
特に問題なのは、
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欠員が埋まらないまま業務量だけが戻る
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人手不足を理由とした倒産・事業縮小が増加
という点です。これは景気循環ではなく、供給制約型の不足であることを示しています。
👉 まずは「何人足りないか」ではなく、どの工程(荷待ち・積込・配送)で輸送力が詰まっているかを数値で把握することが重要です。
構造要因その2|少子高齢化と年齢構成の偏り
人材不足の背景には、年齢構成の問題があります。
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ドライバーの平均年齢は上昇
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若年層の参入が減少
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中型・大型免許へのハードルが高い
結果として、ベテラン依存の現場構造が固定化されています。この状態を放置すると、数年後に一気に戦力が抜け落ちるリスクがあります。
- 若年層向けの免許取得支援
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中型限定解除の社内制度化
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年齢別の補充計画を立てること
です。
現場影響その3|荷待ち・再配達・採算圧迫
人材不足が最も顕在化するのが現場です。
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荷待ち・付帯作業で拘束時間が伸びる
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再配達が増え、実働が圧迫される
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原価が上がっても運賃に転嫁できない
この「見えないムダ」が、ドライバーの疲弊と離職、会社の利益圧迫を同時に招いています。
👉 まずは荷待ち時間・再配達率・付帯作業時間をKPI化し、削減効果の大きい工程から着手するのが最短ルートです。
2024年問題と制度対応で押さえるべき3つの要点

2024年問題は「コスト増」ではなく、経営を立て直すための交渉材料にもなります。
押さえるべきポイントは次の3つです。
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時間外960時間と拘束時間規制
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標準的な運賃・付帯作業の料金化
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物流Gメンによる商慣行是正
それぞれ解説します。
制度理解その1|時間外960時間と拘束時間強化
ドライバーの時間外労働は年960時間が上限となり、拘束時間・休息期間の管理も厳格化されています。
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シフト設計の見直し
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中継輸送・リードタイム調整
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違反リスクを下げる運行管理体制
です。
👉 法令順守を「守り」で終わらせず、業務設計を見直すきっかけにすることが重要です。
賃金と契約その2|標準的な運賃と付帯作業の料金化
人手不足対策で避けて通れないのが、賃金原資の確保です。
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標準的な運賃を根拠に価格是正
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荷待ち・積替えなど付帯作業の明確化
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燃料サーチャージの設定
を行うことで、総額賃金を維持したまま労働時間を短縮できます。
取引環境その3|物流Gメンと商慣行是正
物流Gメンの是正指導は、荷主との交渉を進めるための追い風です。
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契約にない付帯作業の排除
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予約・バース管理の導入
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荷待ち時間削減の合意形成
👉 制度根拠を示すことで、価格交渉と業務改善を同時に進めやすくなります。
人材不足を解消する7つの施策【全体像】

ここまでを踏まえ、運送業界の人材不足を解消する施策は次の7つに整理できます。
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採用母集団を広げる
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早期離職を防ぐ定着設計
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DXによる生産性向上
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処遇と評価の見直し
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教育の体系化
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多様な人材の活用
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荷主との協働による効率化
特に重要なのは、採用だけ・DXだけといった単発施策にしないことです。
では、それぞれを具体的に見ていきましょう。
施策1|採用母集団を広げる|「来ない前提」から設計を変える
人材不足対策の第一歩は、「求人を出せば人が来る」という前提を捨てることです。
多くの運送会社では、同じ求人媒体・同じ文言を使い続け、母集団が広がらないまま採用単価だけが上がっています。
採用母集団を広げるためには、次のような工夫が有効です。
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社員インタビューや一日の流れを可視化する
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地域密着・安定性・貢献性を言語化する
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紹介・シニア・副業ドライバーも対象に含める
👉 「誰に・何を約束する求人か」を明確にすることで、ミスマッチと早期離職を同時に減らせます。
施策2|早期離職を防ぐ|30・60・90日の定着設計
採用できても、3か月以内に辞めてしまっては意味がありません。
定着率を上げる鍵は、入社後のフォローを「属人対応」にしないことです。
具体的には、
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入社30・60・90日での1on1面談
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習得スキルを可視化したチェックリスト
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不安や不満を早期に吸い上げる仕組み
を用意します。
👉 「辞めさせない」ではなく「迷わせない設計」が、定着率を大きく左右します。
施策3|処遇と評価を見直す|時間短縮でも収入を落とさない
労働時間を減らすだけでは、「給料が下がる不安」から離職を招きます。
そのためには、
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標準的な運賃・付帯作業の料金化
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固定給と歩合のバランス見直し
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待機・安全・教育を評価に含める
といった設計が必要です。
👉 時間短縮と総額賃金の維持を同時に成立させることが、2024年問題下での定着のカギになります。
施策4|教育を仕組み化する|属人OJTからの脱却
「教えられる人がいない」
「人によって言うことが違う」こうした状態では、新人は定着しません。
有効なのは、
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OJTカリキュラムの標準化
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スキルマップと等級の明確化
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マニュアル・動画による補完
です。
👉 教育を仕組み化することで、ベテランの負担軽減と新人定着を同時に実現できます。
施策5|DXで生産性を上げる|省人化と標準化
人が増えない前提では、一人当たりの生産性を上げるしかありません。
そのためのDXは、
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配車・ルート最適化
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WMS/TMSによる作業標準化
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デジタコ・ドラレコデータの活用
といった「現場直結型」から始めるのがポイントです。
👉 小さくPoCを回し、KPIで効果が出たものだけを拡張しましょう。
施策6|多様な人材を活かす|女性・シニア・外国人
従来の「フルタイム男性ドライバー前提」では、人材不足は解消できません。
そのためには、
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軽労化車両・荷役設備の導入
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短時間・固定ルート設計
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免許・日本語・安全教育の支援
が必要です。
👉 働き方を変えることで、人材の母集団そのものが広がります。
施策7|荷主と協働する|拘束時間を減らす交渉設計
最後に重要なのが、運送会社単独では解決できない領域です。
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予約・バース管理
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パレット化・置き配
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リードタイム延長・共同配送
これらを荷主と協働して進めることで、拘束時間と再配達を大きく削減できます。
👉 制度根拠(2024年問題・標準的な運賃)を示し、生産性向上と価格是正をセットで提案することが重要です。
まとめ|運送業界の人材不足は三位一体で今すぐ着手すべき
運送業界の人材不足は、待っても解消しません。
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採用・定着・生産性を一本化する
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荷待ち・再配達などムダを数値で削減
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90日で「可視化 → 試行 → 標準化」を回す
この流れを作れた会社から、輸送力と利益を同時に守れる会社になります。まずは自社の不足ポイントを特定し、今日から一歩を踏み出しましょう。
本記事で整理した「採用 × 定着 × 生産性」という三位一体の考え方を、よりリアルな事例と感覚値で理解したい方は、ぜひVol.165もあわせてご覧ください。
よくある質問
Q1 処遇改善と残業削減で収入が下がり離職しませんか?
A1 標準的な運賃・付帯料金・サーチャージの適用、歩合と固定の再設計で総額賃金を維持・改善できます。拘束時間の削減は事故・離職の抑制にも直結します。
Q2 小さな会社でもDXは回せますか?
A2 まずは配車・荷待ち・入出庫の1領域でPoC(低コストWMS/TMS、配車最適化)を行い、KPIで効果が出たら段階的に拡張します。現場の手順書と教育を同時に回すのがコツです。
Q3 荷主との価格交渉が難しいのですが、どこから始めるべき?
A3 契約と原価を棚卸しし、標準的な運賃・附帯料金の根拠資料を整備。リードタイム延長・予約・パレット化といった共通の生産性向上策とセットで提案すると合意形成がしやすくなります。



