冬対策マニュアル① 物流の遅延ゼロと安全を両立する現場オペレーション23項
冬の物流は、「遅延ゼロ」と「安全確保」を同時に求められる、もっとも難しいシーズンです。雪道・路面凍結・強風・視界不良など、現場の判断を誤れば、立ち往生や事故、温度逸脱が一気に連鎖します。
本記事では、輸配送・倉庫運営に関わる管理者・現場責任者の方向けに、*冬場の現場オペレーションを仕組み化する23の実践項目*をまとめました。
キーワードは「予見→判断→実行→記録」のサイクルです。気象・道路情報を24〜72時間前から定点的に把握し、数値化された運行基準で「運ぶ/待つ/迂回する」を判断。スタッドレス・チェーン・軽油の号数・バッテリーといった車両側の対策を徹底し、倉庫・拠点では暖房・断熱・除雪・設備保全を標準手順として整えます。
この記事のチェックリストをそのまま*運用マニュアルや点検表*に落とし込めば、冬季のトラブルを個人の経験頼みではなく、「再現性のある仕組み」として管理できるようになります。まずは、*冬対策の全体設計と優先順位*から見直していきましょう。
全体設計と優先順位|チェックリスト01〜07

- 気象・道路情報その1|24〜72時間前からの情報取得ルーチンを標準化
- 運行判断その2|チェーン規制・通行止め基準を数値で決める
- 連絡体制その3|現場・荷主・顧客の三者連携を平時に整備
冬期の初動で差がつきます。定点的な情報取得、数値基準の運行判断、合意済みの連絡体制が三位一体で回ると、立ち往生・追突・温度逸脱の連鎖を断てます。判断はタイムスタンプで記録化し、翌週レビューで改善を続けます。
気象・道路情報その1|24〜72時間前からの情報取得ルーチンを標準化
その1は、『24〜72時間前からの情報取得ルーチンの標準化』です。短時間降雪予測・注意報・規制見通しを朝夕2回で定刻配信し、代行者を指名します。情報源は気象・高速・道路管理の一次情報に限定し、社内配信のフォーマットを固定します。
【01】朝夕2回・定刻配信(07:30/16:30など)を運用規程に明記
【02】配信テンプレ(対象エリア・時間軸・影響路線・想定措置)を固定
【03】監視対象の地図座標リスト(拠点・峠・橋梁・渋滞常襲)を作成
【04】代行者・不在時の引継ぎ手順を名簿化し、月1で訓練
運行判断その2|チェーン規制・通行止め基準を数値で決める
その2は、『チェーン規制・通行止め基準の数値化』です。想定降雪量・路温・風速・視程、規制発令、除雪体制の各閾値で「運ぶ/迂回/前倒し/運休」を分岐。判断は誰が見ても再現できるよう、打刻と根拠を残します。
【05】分岐フローをA3一枚に図示(例:規制=要チェーン/視程×風速で運休)
【06】判断ログ(日時・判断者・根拠・採った措置・次報予定)を様式化
連絡体制その3|現場・荷主・顧客の三者連携を平時に整備
その3は、『三者連携の平時整備』です。運休・減便時の事前合意書式、一次・二次の連絡チャネル、代替案のテンプレ化を進めます。BCPとKPIに直結させ、連絡の遅延をゼロに近づけます。
【07】「運休合意書」雛形(判断基準・代替輸送・在庫積み増し・SLA修正)を締結
車両・タイヤ|チェックリスト08〜15

- 車両・タイヤその1|スタッドレスとチェーンの使い分けルール
- 車両・タイヤその2|軽油の号数選定と凍結防止
- 車両・タイヤその3|バッテリー・冷却系の寒冷地仕様点検
- 車両・タイヤその4|携行品と緊急脱出装備の標準化
タイヤ・燃料・電装の3本柱で故障と立ち往生を防ぎます。スタッドレスタイヤは溝深さと空気圧が生命線。軽油は地域・気温で号数を切替え、バッテリーは経年劣化の予防充電を標準化します。携行品は定数配置で積み忘れを防止します。
車両・タイヤその1|スタッドレスとチェーンの使い分けルール
その1は、『スタッドレスとチェーンの使い分け』です。溝深さは新品時の50%が目安、全輪装着を原則に、空気圧は寒冷補正値で管理します。チェーン規制に備え、携行・装着訓練・予備の3点をセット運用します。
【08】溝深さゲージで週1測定、50%未満は即交換
【09】チェーン携行を走行許可の必須条件へ格上げ(予備1セット含む)
【10】装着訓練を月1実施(夜間・降雪想定で実地)
車両・タイヤその2|軽油の号数選定と凍結防止
その2は、『軽油の号数選定と凍結防止』です。エリア最低気温の見込みで号数を前倒し切替え。フィルター閉塞に備え、給油所の冬期品質確認、添加剤の使用基準、タンク管理をルーチン化します。
【11】号数切替カレンダー(地域別)と給油所の冬期証明取得を必須化
【12】添加剤の使用基準と混合手順を掲示、入庫時の燃料温度を点検項目に追加
車両・タイヤその3|バッテリー・冷却系の寒冷地仕様点検
その3は、『バッテリー・冷却系の点検強化』です。低温で始動性能が落ちるため、補充電と端子清掃、補機ベルト・クーラント・サーモスタット点検を周期化。冷凍車は補助電源の予熱手順を整備します。
【13】始動困難対策として週次の補充電+端子点検を標準作業に追加
車両・タイヤその4|携行品と緊急脱出装備の標準化
その4は、『携行品・脱出装備の標準化』です。スコップ、牽引ロープ、防滑マット、解氷剤、断熱毛布、非常食、発煙筒、携帯トイレを定数化し、積載位置まで指定します。ワイパーラバーやウォッシャー液(解氷タイプ)も予備携行します。
【14】携行品リストを点検表へ統合、搭載位置の写真付きで標準化
【15】ワイパー・ウォッシャー液(解氷)・防滑スプレーを冬季キット化
走行安全オペレーション|チェックリスト16〜20

走行安全の重点として、以下の3つをご紹介します。
- 走行安全その1|速度・車間・ブレーキの冬季標準
- 走行安全その2|登坂・下り・ホワイトアウトの対処
- 走行安全その3|立ち往生リスクの事前回避と現場判断
冬期運転は「ゆっくり・一定・先読み」が原則です。ABSやスタッドレスを過信せず、低速ギアやエンジンブレーキを多用。除雪隊追越禁止、橋梁・日陰・合流部のリスクを周知し、ホワイトアウト時は停止・退避を徹底します。
走行安全その1|速度・車間・ブレーキの冬季標準
その1は、『速度・車間・ブレーキの標準化』です。速度は法定未満で余裕を取り、ふんわり操作で荷崩れを防止。車間は通常の2〜3倍を目安に、前走車のブレーキランプ頼みの走行を排します。
【16】冬季標準:巡航速度−10km/h、車間は通常の2倍以上を指示
【17】急加減速・急ハンドルの「やらないこと」掲示を運転席前に常設
走行安全その2|登坂・下り・ホワイトアウトの対処
その2は、『登坂・下り・ホワイトアウト対処』です。登坂は停止回避が最優先、手前からギア固定。下りは早めの減速開始とポンピング。視界喪失時は路肩・避難スペースに退避し、ハザードと発煙筒で二次災害を防ぎます。
【18】登坂前の一時停車禁止ルールと合図者配置を教育
【19】ホワイトアウト時の退避手順(停止位置・合図・二次災害防止)を携帯カード化
走行安全その3|立ち往生リスクの事前回避と現場判断
その3は、『立ち往生の事前回避』です。iHighway等で規制・渋滞・事故を監視し、通行止め予見時は早期離脱を判断。除雪車帯の追越は禁止、車間を確保し、待機判断をためらわない文化を根付かせます。
【20】通行止め予見時の「早期離脱・待機」判断をSOP化(打刻・場所・次報時刻を明記)
倉庫・拠点|チェックリスト21〜23

倉庫・拠点の重点として、以下の3つをご紹介します。
- 設備その1|暖房・断熱・気流制御の費用対効果
- 設備その2|結露・配管凍結を防ぐ設備保全
- 設備その3|除雪計画・屋根荷重・落雪対策
大空間の暖房は方式選定と気流制御で効率が変わります。出入口の断熱カーテンや気流制御、HVLSファンの循環で体感温度を改善。結露・配管凍結は露点管理と保温・ヒーターケーブルで先手を打ち、屋根荷重と堆雪計画を冬前に確定します。
設備その1|暖房・断熱・気流制御の費用対効果
その1は、『暖房・断熱・気流制御の投資最適化』です。輻射式は高天井空間で有利、温風式は立上りが速い、電気ヒーターは局所の保温に有効。ゾーン暖房と出入口の間仕切りで原単位(kWh/㎡)を下げます。
輻射式暖房
- 特長:体感温度の向上、作業者に熱が届きやすい
- 適用:高天井空間、ピッキングエリア
- 留意点:初期費用が高め
温風式暖房
- 特長:立ち上がりが速い、広い空間を一気に暖められる
- 適用:出入口付近、往来が多いゾーン
- 留意点:気流ムラが発生しやすい
電気ヒーター(スポット・局所暖房)
- 特長:局所をピンポイントに暖められる
- 適用:待機所・詰所・小空間など
- 留意点:電力基本料に注意(使用量でコスト変動)
【21】暖房原単位(kWh/㎡・時間)を月次KPI化し、ゾーン別に改善
設備その2|結露・配管凍結を防ぐ設備保全
その2は、『結露・配管凍結の予防』です。配管保温・ヒーターケーブル・ドレン対策、不凍液の適正管理を実施。庫内は露点を把握し、換気と除湿で結露を抑制します。破損時は緊急遮断・漏水処置・復旧の初動を標準化します。
【22】配管系統図に保温・ヒーターの有無を明記、点検周期を台帳化
設備その3|除雪計画・屋根荷重・落雪対策
その3は、『除雪・屋根荷重・落雪対策』です。除雪資機材と動線、堆雪場所を設計し、人車分離を徹底。屋根積雪は降雨時の荷重増に注意し、立入禁止区域とハーネス使用、合図者配置を義務づけます。
【23】屋根荷重の注意域・危険域を定義し、警戒基準で立入制限を自動発動
まとめ
冬期の物流リスクは、事前の情報収集と標準手順の有無で大きく差がつきます。気象・道路情報の定点監視、数値化された運行判断、スタッドレスとチェーンの使い分け、倉庫・拠点の暖房・断熱・除雪計画を一体として運用すれば、*遅延と事故の両方を同時に減らすことが可能*です。
- 気象、道路情報の取得と共有をルーチン化すること
- 車両・タイヤ・燃料・携行品のチェックを*冬季標準*として明文化すること
- 速度・車間・ブレーキ操作や立ち往生回避のオペレーションを、教育と掲示で徹底すること
- 倉庫・拠点の暖房方式・気流制御・除雪計画を、KPIと連動させて改善すること
です。
まずは1つテーマを選び、「運行判断フロー」「車両点検表」「倉庫の冬季チェックリスト」のいずれかを今週中に最新版へ更新してみてください。現場の声を取り入れながら週次で振り返ることで、冬のトラブルは着実に減らせます。
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